現在、建設業界では深刻な人手不足が問題視されています。
この問題は、若手の育成が不足していることにより、現場監督や経験豊富な職人の手が空かないという悪循環を引き起こしています。このままでは業界の発展が阻まれてしまう危険性が高まっており、解決策を模索する必要が迫られています。
この記事では、深刻な人手不足を克服し、建設業界の発展に向けて前進するための重要な手段として、新人研修に焦点を当ててみたいと思います。新人研修がいかに業界の未来に影響を与えるかを理解し、具体的な対策について考えていきましょう。建設業界の将来に貢献するために、若手の育成に注力することの重要性を共に探求していきましょう。
効果的な新人研修とは
次のような研修になっていませんか?
- いきなり現場に配属させ、放任する。
- とりあえず社内規定だけ伝えている。
- 一般的なビジネスマナー研修を行っている。
結果として、若手が全然育たない。すぐに辞めてしまう。それだけに収まらず、モラルに反した行動をとってトラブルになったり、信頼を失ったりしてしまう新人が生まれてしまうかもしれません。
この原因は明確です。しっかりとした初期の教育をしていないからです。
体裁を整えるように外部講師に依頼をし、名刺交換や電話の受け答えに始まる「ビジネスマナー」研修を行う。でも一向に効果が見られない。そんな会社は多いのです。
結局お金も時間もムダにしてしまい、会社にとっても、受けている新人社員にとってみても良い結果はありません。これは、本当に必要な教育の内容を吟味できていないから起こる事です。
教育に対し「理論」がないと、どんなにお金と時間をかけても効果が生まれません。どういう意義や目的があって、なぜそれを教えるのか。その理論があってこそ、適切な研修ができるのです。
新人研修で教えるべきこと
では建設業に入社したばかりの彼ら・彼女らに対し、その登竜門である「新人研修」で何を教えればよいのか。その効果的な内容と「理論」を、具体的に解説していきたいと思います。
研修で教えるべきことは大きく2つあり、それぞれでいくつかに分かれています。それぞれの内容と理論を、解説していきましょう。
1.取り返しがつかないミスの防止
「取り返しのつかないミスにつながる部分」とは?
例えば「法律を犯してしまうこと」や「顧客の信頼を失うこと」がこれに該当します。
簡単に言うと、やってしまった後で「知りませんでした」では済まされないことです。ただの純粋な気持ちが、会社を崩壊させることだってあります。その危険の芽を、最初にしっかりと摘んでおく必要があるということです。
具体的に3つに分かれます。
- 法律を犯さない教育
- 顧客の不利益を守る教育
- SNSの重要性と危険性を知る教育
法律を犯さない教育
学生と社会人とでは、常識が変わります。社会的サービスを受ける側から、社会を作る側に回るからです。社会は最低限のルールに基づいて作られており、そのルールこそが法律なわけです。
例えばよくある事例としては・・・
・会社の物を持ち出したり、私物として使う事
→窃盗罪、横領罪
・工事の詳細や会社合併などの情報を友達や家族に話す事
→不正競争防止法、個人情報保護法
が挙げられます。もちろん、飲酒運転や危険運転などの交通違反もそうです。仕事を無断で友達に手伝ってもらったり、危険な場所で仕事をするという労働安全衛生法の違反もあるでしょう。
実例やその法律ができた理由を一緒に伝え、「だから法律で禁止されている」と理解できるように教育を行う事がポイントです。
施工管理とは言え、現場の事よりも先に知っておかなければいけないのは、日常生活で知らずにやってしまう事への防衛です。学生までは個人ですが、ここから先はどんな事をやっても「○○会社の」という冠がついてしまうことを理解してもらう事が大切なのです。
【研修例】
現場から帰宅する時に友達の家に寄りました。
その後、事故を起こした場合、労働災害になりますか?考えてみよう。 など
気を付けなければいけないのは、「アレはダメ」「これはダメ」というように、禁止事項を連らねるような教育は頭に入りませんし、逆効果になる点。閉そく感を感じてしまい、楽しさが奪われるからです。
そうではなく、「いきなりボールを手で持って走りだす人がいる様なサッカー、楽しめますか?」と言う様に、ルールの上でこそ自由があるという考え方を教え、だからこそ仕事は、公平で邪魔されずに楽しめるのだという考え方を持ってもらうようにすべきなのです。
顧客の不利益を守る教育
会社を運営し、給料をもらうためには、顧客がいなければいけません。顧客は会社を信頼しているからこそお金を払って依頼してくれるわけです。だからこそ、その信頼はしっかりと守ってあげなければいけないのです。
気を付けているつもりでも、ついついやってしまう実例をいくつか紹介します。
・エレベーター内で施主のグチを言っていたら、乗り合わせたのがその会社の社員だった。
・芸能人の家を建てていることを、居酒屋で友達に話してしまった。
働いていれば愚痴の一つも出るのは仕方ありません。ただし、常に社会と自分がひもづいていることを忘れてはいけないのです。どこで聞かれておかしくない世の中ですので、些細な事で信用を失墜させない様に未然に防止するべきなのです。
また、新商品の開発工場や防衛局などの諸官庁での仕事もあります。何気なくSNSにアップした写真に、写されてはいけない機密情報がある可能性もあります。そうなれば大事になる可能性も高いと言えます。
【研修例】
○○というユーチューバーの家を建てた事を家族に話しました。
何が問題でしょうか?というディスカッション など
できるかぎり身近でイメージしやすい事例を用いて、しっかりと理解してもらう必要があるのです。
SNSの重要性と危険性を知る教育
SNSの活用によって、情報の伝達速度が速くなりました。これにより、生活の利便性は大きく向上したことは間違いありません。そしてこれをマーケティングとして活用し、大成功をしている企業も多くいます。採用との相性もばっちりなツールです。
ただ、気軽に活用できるツールであるがゆえに、うっかり投稿したことによって信用を失う事も有りえます。犯罪の発端になってしまうことだってあるのも事実です。このようなニュースや情報を受けて、SNSの活用を全面的に禁止する建設会社も多くあります。
ですが、どんなに禁止したとしても、便利で楽しいツールは隠れて使うもの。どんなに罰則を設けたとしてもイタチごっこになります。それどころか、禁止しているがゆえに制御できなくもなるのです。
であれば、有効な活用方法をあらかじめルールとして根付かせるべき。包丁は危険なものとして取り上げるのではなく、料理のできるツールとして使い方を教えるのが教育ですよね。
【研修例】
『足場から落ちたなう』という投稿、何が問題? など
学生のノリでSNSを投稿するのではなく、大人の使い方を知ってもらう方が有効ですよね。上手く活用できれば、「お前の会社に入りたかったなぁ」なんて思われることもあり、採用活動にもつながるツールなのです。
魅力的に発信できる方法、注意すべき点を含め、事例を示しながら教育をしていくべき。むしろ広報のツールとして若者の能力を引き出す事にもつながります。
2.仕事の全体像の習得
働き始めると自然と身についていく、仕事のテクニック。それは現場で先輩が教えていくべきであり、手を動かしたり経験していくうちにできるようになっていくものです。
ではそんな現場に配属される前に、研修で教えることは何か。それは『仕事の全体的な構造』です。
ここでは4つの項目を挙げて解説をしていきます。
- 会社部署の役割と重要性
- 成長のフェーズ
- 現場運営の全体像
- 施工管理の存在意義
会社の各部署の役割と重要性
モノづくりの根本は、現場です。これは間違いありませんが、その気持ちが変に大きくなってしまうと現場の職員たちは「自分たちが一番偉い」「どうして総務・経理ばっかりあんなにたくさんいるんだ」のような、敵対視する論調になる事があります。
そうやって会社全体がギスギスしてしまうのは、そもそも会社組織の事が理解できていないからと言えます。仮にそうならなかったとしても、組織に属している以上それぞれの役割を理解し、自分の立ち位置を知っておく必要があります。
【研修例】
「社長は俺たちの事、何にも分かってない!」という愚痴について、深堀りしてみよう。
社長の役割、幹部の役割、経理、総務、営業などの部署や立場によっての役割。それぞれ見ている視点が違うのは当然の話。でもここを理解していないと、愚痴は出ても感謝の気持ちは生まれません。研修では、会社が組織である意味やチーム戦を行う効率を考える機会を与えることは重要なのです。
成長のフェーズ
新社会人にとって、これから起こる出来事は全て新鮮。ゆえに、とりあえず言われたことを素直に受け入れ、実行する事になります。もしもその行動だけをずっととり続けるとどうなるでしょうか。それは、言われた事しかできない「指示待ち君」が育ってしまいます。
原因は、次に何が起きるのかのイメージができていない事。今起きていることを今対処するだけにとどまってしまうのです。
施工管理としての一人前は「この現場、頼む」という指示だけで建物や道路などの工事を完遂するという、自分で考え、決めて動ける人間になる事です。
そのために必要なのは、将来自分はどんな人間になっていくのかという『遠くのビジョン』と、その為に今何をするべきかという『近くの目標』が見えないといけません。
「100mを全力で走れ」と言われると走れますが、「何mか分からないが、とりあえず全力で走れ」と言われても頑張れません。つまり先が見えないものに対し、人は力を入れることができないのです。
自分の成長段階をあらかじめイメージさせることによって、今自分はどの立ち位置にいるのか、それは何の為なのかが分かるようになり、だからこそ安心できるのです。
会社における成長の段階をいくつかに分け、理解しやすい事例を見せながら伝えておくというプロセスは、成長するためには必要不可欠と言えるのです。
現場運営の全体像
この情報化社会を歩んできた学生たちは、多くの場合事前に情報を得ています。ですが、そのほとんどが具体性を欠いており、漠然としたイメージを持っています。その解像度を上げておき、その後に現場に配属するのが良いと言えます。
具体的には、新人に対し「なぜ建設業に?」と聞くと「大きな仕事をしてみたかったから」と言います。ですが、現実的な施工管理の業務は地味そのもの。建物と仕事をしているようで、日々行っているのはパソコン業務。雑用。そんなところから始まります。
本質的には、職人さんの為にコーヒーを買ってこようと、会議のためのコピーをしようと、結局は建物を建てるために行っている業務と言えます。ですが、事前のイメージとの違いに違和感を抱き、嫌になっていく事が多いと言います。
今行っている業務がどんなに小さくても「何のために」が理解できれば、やりがいを感じやすくなるのです。だからこそ、工事現場はどういう順番で進むのかというアウトラインと、施工管理はどのように関わっていくのかというつながりを、イメージさせることが重要になります。
一つ一つの業務を細かく教えるのは必要はありません。研修段階では、工事の概略と意義についてを、イメージがしやすいように写真などを用いながら教えておく必要があるのです。
施工管理の存在意義
施工管理という仕事の本質は「裏方」です。実際に体を動かして建物や道路を造っていくのは職人さんであり、彼らがスムーズに全力を出して働いてもらうための段取りをすることが本来の業務と言えます。
指示を出す現場監督が偉いのではなく、黒子として職人を引き立てることこそが、僕らの真骨頂なのです。施主や設計の意図を汲むことも、わかりやすく間違いのない施工図を作ることも、打合せも、面倒な法的な申請手続きも段取りも。その全ては現場を円滑に進める為なのです。
結局釘を打つわけでもなく、クロスを貼る事も出来ない施工管理は、立場が不明確になってしまいがち。だからこそ存在意義をしっかりと伝え、社会的にみてどんな価値があるのかを教えておかなければ、いつかどこかで迷ってしまいます。
「自分が現場を動かすんだ」と息を巻いても、うまくいかない時がきます。そんな壁にぶつかって折れてしまうのではなく、あらかじめ「職人さんに動いてもらうための完璧な準備をするんだ」というところに照準を合わせて働くことが重要。
そうすれば、関わる全ての人たちに対して感謝の気持ちを忘れない、地に足の着いた現場監督に育つことになるのです。会社によって誇りを持つ部分は違いますが、会社の理念と照らし合わせ、しっかりと棚卸しをしてから、それをていねいに新人に伝えて欲しいと考えます。
以上が、新人研修で教えるべきことです。
まとめ
講義やディスカッションなどを絡め、自分自身の頭で考えて意見を言い合う新人研修が理想的であり、そう考えると「短期間に詰め込む」という方式は良いやり方とは言えません。
最低でも1週間を目安に、ここまでの内容を考慮した上でカリキュラムを作成しましょう。そうやって社会人としてのセットアップを完了してから、現場に配属することをお勧めします。
学生から社会人になったばかりの彼らは、社会人における最低限のルールやマナー・モラルなど、全てにおいてわからないことだらけ。ですが、ついこの間まで学生だったため「教わる」ということに対してまだ抵抗がありません。
だからこそ、このタイミングでしっかりと研修を行い、体系的な教育をしていかなければ、唯一のチャンスを失いかねないのです。
「とりあえず」で現場の先輩に投げてしまうのではなく、セットアップをした状態でバトンタッチをすることも、現場の業務効率化につながると考えます。
